「そんな身体で大丈夫なの? 大人しく寝てた方がいいんじゃない?」
「悪いが、私はお前の様にゴロゴロしている訳にはいかんのでな」
八雲に止められながらも、私は二日酔いにより頭痛が止まない身体を抱えながら、霧島家からいつものように遠野駅に向かった。
昨日はあれから霧島姉妹の父親である霧島直也氏の帰還と、八雲が霧島家の養子として迎えられたことを記念した祝賀会が催されていた。直也氏の勧めで私は遠野産のホップで酒造されたビールで共に呑み交わした。
そして調子付いて飲み続けてしまった為、生まれて初めての二日酔いになってしまったという次第だ。
生まれて初めての二日酔い。今まで余り人と交わらぬ生活を続けて来た私は、二日酔いになるまで酒を飲む機会などなかった。時折多めの収入が入った時、自然情景を肴にして一人で飲む程度だった。
他人と酒を飲み交わすのも悪くはないと思った。しかしながら、以後二日酔いは避けたいものだ。
「しかし家族か……」
今の霧島家は母親が不在とはいえ、それなりの家族の形態を成している。正直旅の中での生活を続けていた私には、家族という形態は無縁なものである。
そしてその私が無縁のものを形成している霧島家は、私にとっては羨望の的と言える。だからなのだろう、もう少しここにいたいと思うのは。
だが、もう少しここにいるなり旅に出るなり、金が多いに越したことはない。それに霧島家で徒に時をダラダラと過ごすのも申し訳ないので、私は二日酔いの頭を抱えながら遠野駅への道程を進んで行った。 |
第拾参話「至誠に悖るなかりしか」
「くっ、やはりこの身体ではな……」
遠野駅に着き、いざ法術を振るおうとした。しかし、やはり二日酔いの身体では思うように力を使うことが出来ず、私は駅のホームの長椅子に背もたれていた。
その勢いで私の身体は本能的に二日酔いを和らげる眠りを求め、地べたに倒れこむ形で暫しの眠りに就いた。
「大丈夫ですか……?」
「ん……?」
どれくらい眠りに就いたのだろう、私は頬にヒヤっとした物を当てられたことにより、目を覚ました。
「その様子ですとご気分が優れないようですが…これでもお口にして気分を和らげて下さい……」
ゆっくりと目を開けると、目の前にいる人間が美凪嬢であると認識出来た。美凪嬢が帰って来た時間帯となると既に5時は回っているのだろう。どうやら2、3時間程眠りに就いていたようだ。
「世話になるな」
「いえいえ……」
折角出された物を押し返す訳にもいかないので、私は美凪嬢が差し出した缶紅茶を口にした。英国で産業革命が発展された折、アルコールの代替として紅茶がもてはやされたと言うが、昨日の祝賀会も紅茶ならば幾分かはマシだっただろう。少なくとも、許容量以上のアルコール飲料はもう二度と飲みたくないものだ。
「ふう。しかしこのような時間に下校とはなかなか大変な生活をしているな」
紅茶を飲み終え一息付いた私は美凪嬢に話し掛けた。この遠野から花巻間で電車で約一時間、それより更に南に行っているのだから、社会人でもないのに片道一時間以上通学に費やすのは大したものである。
「最初は大変でしたが……、それに見合うものがありましたから」
「見合うもの?」
「ええ……。そして私がこうして遠距離を通い続けているのはその為でしたから……」
ゆっくりと今の学校に入学するきっかけになった逸話を話し始める美凪嬢。それは一年半前の一月末に遡るという。その当時美凪嬢は地元の高校に既に推薦合格しており、後は入学を待つばかりだったという。
「その時ある事件が新聞やテレビを湧き立たせていたのです……。『7年間昏睡状態だった少女が、奇蹟的に目覚めた」という……」
「聞いたことがあるな。確かその少女の恋人が目覚めさせたとか……」
もう一年程前の出来事なのでうろ覚えであるが、確かにそんなニュースを耳にした記憶がある。世紀末で何となくだが世の中が暗くなっていた時にこういう明るいニュースは良いものだと、当時は聞き流していた気がする。
「ええ。そしてその恋人の名は相沢祐一、目覚めた少女の名は月宮あゆ……」
「何!? それは本当なのか?」
「現代医学では昏睡状態から目覚めさせるのが不可能な状態でしたのに、ある人間の力によって目覚めた……。そこには一般常識を超えた何かが働いていると考えても不自然ではないでしょう。
兄上様が実際に力を使ったのを見た鬼柳さんならご理解いただける筈です」
成程、確かに祐一や私の力ならばそれも可能かもしれない。しかし私が祐一とあゆ嬢に会った時不思議な感覚を抱いたのは、過去のそのニュースが原因だったのか?
いや、違う。あの時はニュースを軽く聞き流した程度であって、具体的な名前までは記憶になかった。あの二人に不思議な親近感を抱く理由はその出来事ではない。もっと違う、言葉では説明出来ない見えないある繋がり。その繋がりによってあの二人に不思議な感覚を抱く気がする。
「その時私は惹かれたのです。相沢祐一という人間に……」
奇蹟を起こした青年、相沢祐一に惹かれた美凪嬢は、その後ニュースなどを通し祐一の所属する学校を知り、この青年に近付いて見たいと、推薦を蹴って祐一の通っていた高校を受験したとのことだった。
ある人に惹かれたからその人の通う学校に行く。そういった気持ちは理解出来なくはない。しかし美凪嬢の場合、既に決まっていた推薦を蹴ったのだ。客観的に見れば、それは愚考以外の何物でもない。
「しかし、よく家族が許したものだな」
普通に考えれば推薦を蹴ってまで違う学校を受験するのは家族が大反対する筈だ。そう思い、私は美凪嬢に問い掛けてみた。
「ええ……。父が許してくれましたから」
父が許してくれたという答えに、私は少し違和感を覚えた。私は家族は許したかと訊ねたのに、美凪嬢は父が許したと応えた。美凪嬢の家族の実権は父親が握っているのか、それとも……。
いや、止めておこう。以前にも美凪嬢が推薦を蹴った理由を訊き出そうとした時、他人のプライバシーは安易に訊くものではないと女史から釘を刺された。
推薦を蹴った理由は今の会話の過程で訊くことが出来たが、今回のようにこちらから訊き出さずとも美凪嬢の口から自然と出ることもあるだろう。そう思い、私はこれ以上言及しないことにした。
「そういえば直也さんが帰っていらっしゃったと……、佳乃ちゃんから携帯で聞きましたが?」
「ああ。その関係で私は今日二日酔いなのだ。確かもう博物館業務に復帰した筈だ。時間的に帰る直前だろうから、今から共に向かってみるか?」
「ええ……」
二日酔いになったことを苦笑しながら語り、話題を直也氏のことへ変えた。美凪嬢が共に向かうと言ったので、私はその足で共に博物館に向かって行った。
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「どうやらちょうど帰る所らしいな。しかし隣にいる男は……」
博物館の前に差し掛かると、帰り支度を済ませ博物館から出て来る直也氏の姿が確認出来た。その姿をよく見ると、体格の良い中年男性と楽しそうに話ながら歩いていた。直也氏の友達か誰かなのだろうか?
「お父様……」
そう叫び、美凪嬢はその男性目掛けて駆け付けて行った。
「五省発声!」
すると美凪嬢の父親らしき人物は、突然五省発声と叫んだ。
「至誠に悖るなかりしか……! 言行に恥ずるなかりしか……! 気力に欠くるなかりしか……! 努力に憾みなかりしか……! 不精に亘るなかりしか……!」
父親らしき人物の前で立ち止まり、美凪嬢はそれに応えるように五省を唱えた。うろ覚えだが、確か五省というのは旧海軍から伝わる一種の訓戒みたいなものだと記憶している。
「ハッハッハッハッハ、よく間違えず応えられたな。それでこそ我が娘だ!」
「お帰り為さいませ、お父様……!」
深く礼をした後美凪嬢はゆっくりと父親に近付き、そして包み込まれるかの様に抱き付いた。
「前より少し声が大きくなったな」
「ええ……。應援團幹部の見習として、日々精進していますから……」
抱き付いて来た美凪嬢を優しく抱き抱えながら語り掛ける美凪嬢の父親。その抱き付いた美凪嬢の顔は、今まで見た中で一番幸福に包まれた笑顔だった。
「やれやれ。どうして私の周りにいる娘はこうファザコンなんだか……」
ポカッ!
「痛てっ」
「そういうことを人前で言うんじゃない、父さん」
遠野親子の再会の情景を冗談気味に皮肉る直也氏の背中に、博物館の中から出て来た女史が顔を真っ赤にしながら履いていたヒールをぶつけた。
女史は自分がファザコンと言われたことを恥ずかしく思い否定したいようだが、昨日の父親と再会した女史の姿を見る限りは、否定しようのない事実な気がする。
「ところで美凪。お前が今一緒にいた男はお前の恋人か何かか?」
「ああ。その青年はさっき話していた、今私の家に居候している鬼柳君だ」
「そうか、君が鬼柳君か。お初にお目に掛かる、私は日本国海上自衛隊一等海佐、護衛艦『きりしま』艦長、遠野猛という者だ」
「私の方こそお初に御目に掛かる。名前は直也氏から聞いているであろうが、姓は鬼柳、名は往人と申す者だ」
私に対し毅然とした言動と姿勢で敬礼する遠野一佐。一大の礼に対し、私も襟を正して名を語った。
「そういえば君は私が駅に着いた時にはホームで居眠りをこいていたな。我が国だから良いものの、他国であのような場所で寝ていると物品を盗まれかねんぞ」
「そこにいる直也氏に酒を飲まさせられ過ぎでもしない限り、あのような失態は起こさんよ」
どうやら遠野一佐は私が遠野駅で眠っている間に帰還したようだ。一佐に言われるまでもないが、私も海外ならばあのような行動は取らない。最近は低下しているようだが、そこそこの秩序を保っている警察権力に感謝する限りである。
これで一佐を含めた自衛隊に積極的に活動してもらえば国防は完璧なのだが、如何せん、自衛隊を軍隊と認めたがらない輩がいる限りではそれも叶わないだろう。
「ほう、直也に付き合わさせられたのか。それならば仕方なかろう。俺以外の人間で直也の酒に付き合える人間はおらんからな」
「おいおい、それはお互い様だろう」
「ハハ、それもそうだな」
どうやら一佐も直也氏に引けを取らない酒豪のようだ。あれだけ飲んで平気な人間が世の中に二人もいるということだけで末恐ろしいものである。
「ところでお父様……。今回の帰郷は何の用で?」
「いや、何、直也が帰って来たと聞き付けてな、それを祝いに2〜3日休暇を取って帰って来たのだ」
「そうでしたか……」
「とりあえず今晩は直也の家で朝まで飲み明かそうかと思っている」
どうやら昨日に続き今日も祝賀会を開くようだ。願わくば、今回は不参加の方向で行きたいものだ。
「それでお父様、家の方には……」
「いや……。今日はこのまま直也の家に行こうと思っている。母さんにはその、いつものように頼む……」
「はい、分かりました……。では私の方は一足先に家に帰らせて頂きます」
そう深く礼をし、美凪嬢は帰路へと就いた。今の会話から察するに、美凪嬢の父母は絶縁状態か何かで極力会わないようにでもしているのだろうか。
そんな遠野家の事情が気になったが、私は女史の運転する車に乗り、他の一同と共に霧島家への家路に就いた。
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「ではこれより、お父さんの帰宅を祝う会の2日目を始めたいと思いま〜す」
佳乃嬢の開会の言葉により、本日の祝賀会が始まった。参加メンバーは霧島一家と遠野一佐と真琴嬢に私の計7人。出来得るなら私は不参加の方向で行きたかったが、残念ながらそれは叶わなかった。
「さ、八雲。猛おじさんにご挨拶するんだよ」
「はぁ〜い、お姉ちゃん。初めまして、猛おじさん。僕は佳乃お姉ちゃんの弟の八雲って言います」
佳乃嬢に促され、遠野一佐に挨拶をする八雲。私に対しては相変わらず小生意気な態度を取る八雲であるが、佳乃嬢の言い付けには素直に従うらしく、子供なりに礼儀正しい挨拶をした。
「なかなか元気のいい坊主だな。しかし養子とはいえ、これで念願の男の子が出来た訳だな」
「まあな。10年後共に酒を交わすのが楽しみというものだ」
どうやら八雲は10年経てば直也氏と酒を交わす運命にあるようだ。10年後の八雲が酒に強いならば問題ないが、弱ければ合掌する次第である。
「では開会の言葉に続きまして、大佐の人形劇に移りたいと思いま〜す」
「待て! いつ私がそのようなことをやると言った!?」
「まあ、場を賑わす為だ。気軽にやってくれ」
「致し方ない……」
霧島姉妹に促され、私は渋々と法術による人形劇を始めた。
しかし、ふと思えばこの家に来た当初はこの人形を動かすのが手一杯であった。ほんの数日しか経っていないとはいえ、今は色々と出来るようになったものだ。
「ほう……。なかなか面白い手品だな、青年。俺は眼の良さには自信があるが、トリックがさっぱり分からん」
私の法術に、早速一佐が興味を示した。海自故か眼には自信があるようだが、私の法術は”力”であり、トリックなどは存在しない、いや法術がある意味でのトリックなのだが、常人にはその説明は付かない。
「まあ、トリックというか、一種の超能力で動かしている。故に如何に眼が良いと言えど種が分かるものではない」
今更種を隠す必要もないと思い、私はあっさりと一佐に種明かしをした。種を明かした後の反応は十人十色だが、この遠野一佐はどのような反応を示すか楽しみなものだ。
「現代科学では説明の付かない人知を超えた力。人はそれを超能力と呼ぶが、成程、つまり君は現代科学では説明の付かない”何か”をやったことにより、人形を動かしたということか」
「まあな。もっとも、完全に説明が付かない訳ではない。科学的に言えば、本来原子的衝動を持たぬ人形に、外部から刺激を与えることにより一時的に原子的衝動を与え動かしているのだ」
以前の真琴嬢の説明などを交え、自分なりにこの力を解釈し、説明してみた。もっとも、私自身原理は漠然としか理解しておらず、これ以上の具体的な説明は今の所無理である。
「生命活動を原子の衝動によって行われているものと解釈すれば、その衝動を持たぬ物に生命活動を行うような衝動を与え、擬似的な生命活動を行わせるという感じだな。成程、概念自体は理解出来なくもない。
しかし概念を分かっていても常人には出来んな。そういった意味では君は超能力者かもしれんな。
いや、しかし大したものだ。人間、これ以上の進歩は望めないものと思っていたが、まだその希望は持てるようだな」
「人間の進歩は望めない? どういう意味だ?」
一佐の言葉が気に掛かり、私は問い掛けた。一佐の言葉を借りるなら、私がこの力を持っているのは、常人より高みの存在と言えるのかもしれない。しかし人間の進歩がこれ以上望めないというのは気に掛かる。
「そうだな、具体例を出そう。例えば我が艦である護衛艦『きりしま』は、最新鋭のイージス・システムを搭載している。このシステムはレーダー覆域数百km以上、10目標以上同時対処可能、最大射程100km以上と脅威的なスペックを誇っている。
そこで質問だが、この技術は人間の進歩によって生み出されたものと思うかね?」
「いや、人間そのものが進歩したというよりは、科学技術や製造技術の進歩によって生み出されたものであろう」
「模範的な解答だな。そう、君の言う通り、イージス・システムは科学技術や製造技術の進歩によって生み出されたものだ。しかしながら、技術の進歩=人間のそのものの進歩とは必ずしも言えない。
確かに技術というのは人間の智恵の発展なくしては進歩しないものだ。しかしそれはあくまで新たな技術の概念を理解し得るようになっただけであり、人間そのものが進歩した訳ではない」
「失礼。お前ばかり喋っていて黙っているのも退屈だから、続きは私が喋らせてもらう。それでいいかね?」
「構わんよ。人間云々に関しては、俺よりお前さんの方が適任だからな」
一佐が語っている最中、直也氏が割り込み、続きは直也氏が語ることとなった。
「さて、猛の言う通り、技術の進歩=人間の進歩とは必ずしも言えない。確かに科学的知識がまだ確立されていない時代の人間よりは現代の人間は進歩しているだろう。
もっともその進歩とは、新たな技法を身に付けたというような覚える、理解する力の進歩に限定されるものだ。進歩という言葉をその範疇に限定するならば、人間は以後も進歩し続けるだろう。
しかしそれは人間そのものを進歩させるのではなく、技術を進歩させることにより人間に足りないものを補わせるという発想に基づいている思想だ。智恵の発達は技術を進歩させる為に必要なのであり、人間そのものを進歩させる為に必要なものとは、技術発達の範疇では認識されていない。
現にイージス・システムなどは技術の向上ではあるが、それによって人間そのものの能力が向上したとは言えない。寧ろ、肉眼で索敵していた時代よりは人間そのものの能力は低下したかもしれない。
技術の進歩は人間そのものを進歩させるどころか、逆に人間が元来保有していた能力を退化させているのかもしれないな」
成程。二人の説明により、人間の進歩は望めないという一佐の仮説が理解出来た。つまりは現代文明が技術の発達を何より目指すなら、それは人間そのものの進歩を目指すものではないので、現代文明を突き進めて行く限り、人間の進歩はこれ以上望めないということなのだろう。
(ん? ということは……)
そこで私はふと、ある仮説を思い付いた。もし、人間の智恵というものを技術の進歩に費やすのではなく、人間そのものの進歩に費やしたとしたら……?
「まあ、難しい話はこの位にしておいて、久し振りにどちらが先に酔いつぶれるか勝負といこう!」
「望む所だ。海自の連中と飲み比べて未だ無敗の俺にそう簡単に勝てるとは思わんことだな!」
「さて、私はそろそろ……」
下手に飲み比べに参加したら生きては帰られないと思い、私は早々に退出しようとした。
「やれやれ、これから盛り上がるという所なのに、人付き合いが悪いな鬼柳君」
「敵前逃亡は銃殺刑に値するぞ。潔く付き合うのだな」
「ハ、ハハ……」
時既に遅し。今の私には退路を絶たれ、玉砕覚悟の闘いに身を投じる選択肢しか残されていなかった。私は、ただ笑うしかなかった……。
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(ぬうっ! あの二人は化物かっ!?)
4〜5本飲んだ所で見事に玉砕した私は、その場に寝転がっていた。そして私が玉砕した後も平気な顔をして飲み続ける二人を、横目で見続けていた。
「ふう、この位が限界か……」
「俺もこれが限界だな。しかし相変わらず勝負は付かんな」
「まったくだ」
どうやらようやく勝負が付いたようだ。結果は両者共倒れ、というかその直前に飲むのを止めたようだ。しかし勝負が付かないのが大方分かっているのなら、私を誘わないで欲しかったものである。
「しかしさっきの続きじゃないが、100k遠くの目標を捕らえることが可能な最新鋭のイージス艦でさえ、特定の人間を見付けることは出来ない。最新鋭のイージス艦を持ってしてもお前さんの消息を掴めなかったのがいい証拠だ。どんなに技術が進歩しても限界ってのはあるんだろうな」
「行方不明になっていた私を見付けられなかったのがそんなに悔しいのか?」
「まあな。無論機械なんぞ頼りにならんと自分の足で捜し歩いたさ。その度に、こんな時もし超能力でもあればと何度も思ったものだ」
一佐の気持ちは分からなくもない。最新鋭のイージス艦でさえも特定の人間を捜し出すのは不可能だというのは、ある意味一つの皮肉だ。
しかし力が使えるからといって、捜し求めていた人間が見つけられるという訳ではない。そう、私が背中に羽を持ちし者を未だ見付けられぬように……。
「んん、お父さん……」
そんな時、直也氏の膝元で眠っていた女史が寝言を言った。無理矢理勝負する羽目になった私とは対照的に、女史は自ら勝負に乱入し、そして私が玉砕して間もなく酔いつぶれ、その勢いで眠り出した。
「やれやれ。もう20も過ぎたというのに、いつまでも子供だな聖は」
直也氏はそう呆れながらも、自分の膝で眠りに就く女史の頭を軽く撫でた。私から見れば充分大人の女性に見える女史も、直也氏の目から見れば、何歳になっても子供なのだろう。
「例え30になろうが40になろうが自分の子供は何歳になっても子供なものだ。しかしだな、今のはお前が悪いようなもんだぞ。娘を構ってやらないで鬼柳君にばかり酒を勧めていたから、躍起になっていたようなものだ」
「それは冤罪も甚だしいな。お前だって鬼柳君に勧めていたじゃないか。誰かのせいというのなら、十分お前のせいでもあるぞ」
まるで省庁間で責任の擦り付け合いをするかの様に、なかなか自分の非の打ち所を認めようとしない二人。しかしながら、どう考えても二人が私に飲め飲め言ったのが原因なのは否定しようのない事実だろう。
それにしても、私に酒を勧めたのは息子と共に飲みたい所作の代価としてなのだろう。息子と共に酒を交わしたいというのは、父親共通の願望なのだろうか?
「しかし話は変わるが、いい加減明日は家に帰るつもりなんだろう? ひかるさんだってお前の帰りを待ちわびているんだろうし」
「ああ、あまり戻る気はしないが、それだと美凪があまりに不憫だからな……」
ひかるというのは一佐の妻の名前なのだろうが、今の会話を聞く限りでは絶縁状態ではなさそうだ。恐らく一佐が家に戻りたがらないのは何か他の原因があるのだろう。
「……。もしお前が望むなら、月宮君を呼ぶが?」
「あのお前が捜し求めていた月讀宮の娘か?」
「ああ。原子に衝動を与える鬼柳君の法術が陽の力だとするならば、それとは対照的な陰の力である霊や魂と交信が可能な月讀宮の力……。
鬼柳君の法術を認められるお前なら、彼女の力も認められるだろう。彼女なら”みちる”を呼び出せる筈だ」
あゆ嬢の力を私の力とは対照的な力だと説明する直也氏。そして直也氏が語った”みちる”とは一体……?
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…第拾参話完
※後書き
え〜と、今回の題名は分かる人には分かると思いますが、『ジパング』外伝のパロディです(笑)。今回自衛隊ネタを使うのでこの題にして見ました。まあ、題名をそのままパクッただけで、中身はまったく違うのですがね(爆)。
さて、美凪の父親も本格参入し、男人口が一気に増している今日この頃ですが、霧島姉妹の父と美凪の父母の名前の元ネタにはある共通点があります。果たしてその共通点は?答えは次回の後書きで。ヒントは霧島姉妹の母親の名が恐らく瑠璃子である事、美凪の母の旧姓が三枝でその父の名が伝衛門である可能性がある事。ここまで言えば分かる人には分かるかと(笑)。
それと直也さんと猛さんのイメージはそれぞれ直也(ヤン=ウェンリー)、猛(ワルター=フォン=シェーンコップ)で書いております。ですので、脳内でCVを再生する(爆)場合は、直也(富山敬)、猛(羽佐間道夫)でお読み下さい。
※平成17年2月22日、改訂 |
第拾四話へ
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